餡子の話

さかのぼれば12年ほど前か。まだ小学校の教員をやっていたころ、初めてあんこを作った。年に2回ほどあった個人懇談の行事(三日間ほど)の時だった。父母との懇談は結構な時間と労力が必要で、教員のみんなも相当疲れてくる。そこで、私が提案して、懇談のない担任外の先生の協力を得て、パンづくりをし、みんなに差し入れをしようと考えた。当時もいろいろとパンは作れたが、(疲れがとれてほっとするパンってなにかなあ~)と考えたとき、思い浮かんだのは、アンパンだった。それなりに努力はしたが、あんこづくりはそんなに簡単にいくはずもない。とりあえずできた。それを皆さんに食べていただいた。教頭先生が「おいしいアンパンだった。」と、そう感動的でもなく言ってくれて、微妙な喜びを感じたことを思い出す。

大阪門真市で約30年小学校の教員をした私。最後に勤務した小学校は、京阪電車「萱島駅」の近くの小学校だった。大昔、門真市はほぼ海で、淀川などで運ばれた土砂が徐々に堆積され現在の地形を形作ってきた。湿地帯だった門真の特産物として「レンコン」は、江戸から明治にかけて日本一だったといわれる。門真のあちこちに大きな楠の樹が点在する。これは、淀川の氾濫に苦しめられてきた門真の人々が、土地や暮らしを守るために堤を造り、その堤をより強固にするために楠を植えたからだ。「まんだの堤」と言えば、あの日本書紀に出てくると言うほど歴史的な文化財で、北河内の方では知らない人はいない。あんこの話が、突然、門真の歴史に変わるのかというと、もちろんそれには深い意味が。この萱島駅のすぐ隣に「まむた」という和菓子のお店がある。

このお店の社長が、たまたま勤務していた小学校のPTAの副会長となった。私もPTAの書記として、社長さんと懇意になった。色々とお話を伺う機会もあり、お店の話もしていただいた。「まむた」の「楠どら」は、人気商品でこの辺りでは有名などら焼きだ。社長はとても気さくで、社会見学としてお菓子の製造の様子も子どもたちに見せてくれた。そんなまむたの「楠どら」は・・・・・、はっきし言って、「日本一」のうまさ!こんなおいしいどら焼きは、どこに行っても出会えない!!

この写真は、オニパンのお客様で、私がまむたの楠どらを以前あげたことがある方が撮ったものだ。その方は「うまい!」と絶賛。それから数年たつと思うが、そのことを憶えていて、大阪へ行った際立ち寄り、最近「楠どら」をお土産に持ってきてくれたというわけ。

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ちなみに「まむた」というのは「まんだ」の別の言い方で、昔の北河内周辺をそう言ったそうだ。

オニパンカフェを開いてパン屋をスタートさせたのがほぼ8年前。意欲に燃える「若かった」私は、おいしいアンパンを目指し、あの「個人懇談」以来の製造に励んだ。知人の和菓子職人に聞くと砂糖は「ざらっとしたものが、すっきり上品になる」と聞き、白双糖を半分入れることに。あと半分は三温糖にした。三温糖は、旨みが出せるからだ。いろいろと作り方を変えながら、試行錯誤。しかしなかなかおいしい餡子は出来なかった。こまって、別府の和菓子のおばちゃんにそれとなく聞いたりもした。しかし、詳しく自分のお店のレシピを教えてくれるわけがない。「何度あく抜きをしてます~?」なんて、素人顔して聞いても「あんまりせんほうがええ」程度の教示。

昔からの友人が来て、お店でアンパンを食べた。その友人私を呼んで耳打ち。「おい、日浦、このあんこ水っぽいぞ。」その一言で、私はアンパンを出せなくなった。

近所に住むぼたもちづくりをしている人に「餡子作ってくれませんか」と尋ねたこともあった。しかし、採算が合わないしなあ~。どうしたものか。やっぱりやるしかねえべ。

こうして3年くらい過ぎる。日々の積み重ねは、ただ黙ってそこにいる対象物ではあるが、いろいろと情報を発信してくれている。そしてじょじょに物事の仕組みを教えてくれる。塩の量はこれくらいとか、もっと練ると色や舌触りが変わるよとか、出来たと思っても一晩おいて翌日また練るとさらになめらかで旨くなるよとか。こうして、何とかおいしい?餡子が作れるようになってきた。

うちのママの姉から贈り物が届いた。3~4年前のこと。それはまむたの「楠どら」だった。私がうまいとよく言うDSCN3461ので、萱島の近くに住んでいるママの姉が気をきかせて送ってくれたのだ。まむたの社長がこんなことを言ってたことを思い出した。「あるとき原材料を入れるのを間違えたことがあった。失敗したと思って食べてみると、これが案外うまいではないか。それで楠どらの味が変わった。」私は楠どら
の包装に書いている原材料名を見てみた。するとお酒が中にあった。へえ~お酒も使ってるんだ。ちょっと違うかもしれないが、お酒も餡子に入れてみよう。そんなこんなで、確実に進歩してきたオニパンの餡子。自分の舌で味わって、「おいしい!」と思える餡子に育ってきている。私の子どものような餡子。

今、試行錯誤しながら取り組んでいるのが、黒豆。これもなかなか手ごわい。少しずつおいしくなってきている。これも繰り返しの取り組みで、確実においしくなるはず。何でも、継続とそれにつぎ込む情熱と工夫のエネルギーに比例するはずだから。DSCN3493DSCN3494