酵母生活・へしこ茶漬け・くさや

パンの修行をしていたとき、お世話になった「かどかど」。そのお店で、色々な味を教えてもらった。
食べ物に淡白な私は、好きなものと聞かれると「カレー、ラーメン、ギョーザ」ぐらいしか思いつかない。一時期、椎名誠の本に熱中したことがあった。表現が面白くて、いつも、ケタケタ笑いながら読んでいたのだが、同時に食べ物に関しても、読者をググッと引き込む力があった。思わず食べたくなる、あるいはどんな味なのだろうとつい考えてしまう。椎名さんの本に出ていた珍味「くさや」「ほや」はその時から、いつか食べて見たいと、思っていた。その珍味に、かどかどで出くわした。ほやは岩手県の珍味、くさやは伊豆諸島が原産のようである。ほやは、ちょっと「変だ」と思ってしまうと、自己暗示から底なしの沼に引き込まれてしまうような味で、「なんだ、こんな味か」と軽く思うと、食べられる。くさやは、「くせ~!!」もう、臭い、クサイ、くさ~!!!。うっ??でも、なんか、うめ~?っそう??よくわからないが、不思議なうまさがある。温めると強烈な臭みがある魚の干物なのだ。かどかどには、面白い方々がたくさん集まっていた。ちょくちょく同席した、韓国の好青年「しんちゃん」一家が、「くさやよりすごい物が韓国にあります。」といって、韓国帰りのお土産に、試食会を開いたことがあった。それは、名前は忘れたが、「くさや」の上を行くすごい代物だった。世の中、色々な味があるのだと、つくづく思い知らされた。
塚原で暮らしだして、1~2月に一度くらい、湯布院の町へお食事に行く。「玉ちゃん」というお店に何度か行った。そのお店も、ちょっと変わったものが置いてある。そこで「へしこ茶漬け」なるものを食する機会に巡り合った。魚の切り身が入ったお茶漬けだ。その切り身が、少し臭くて、あの「くさや」になんとはなしに似ている。まあ臭みは100分の1くらいではあるが。そして、そのお味は、確実にうまい!のである。(うん、この味、発酵食品だな)酵母研究家でもある私はすぐに気がついた。

昨年もそうだったなあ。この時期になると、雪が多くってお客様が少なくなって、定休日も増える。そうすると、むらむらっと私の中に潜んでいた酵母研究の思いが湧きあがって来る。
折々帳で報告していなかったが、昨年の酵母生活の続きとして、オニパン酵母をつくる材料となる米麹そのものを作ってみた。
左の写真は塚原の農家の方から分けていただいたもち米を蒸し、種麹をふっているところ。

麹造りの過程は、本題とは違うので省略しますが、少し写真をのせますね。

時間が経つと、麹菌の活動が活発となり
温度もあがっていきます。もち米の表面に、カビが見えてきました。

のべ三日かけて、米麹が出来上がりました。すごくいい出来だとは言えませんが。

本題にもどります。たくさんの麹ができたのですが、私の方は、オニパン酵母の研究が壁にぶち当たり、やる気も萎えてしまってました。
この麹もったいないなあと思い、ちょっと遊び気分で、スーパーで魚のあらを買って、塩と一緒に麹を入れて、冷蔵庫に。それから半年以上の月日が過ぎて行きました。冷蔵庫の中で、臭いをぷんぷん発散するこの魚たち。ママからは、「臭いからどうにかして」と言われ続けますが、忙しさにかまけて、ほっぱらかし状態。
冷蔵庫が臭くなるのと、狭いということもあり、新年過ぎてやっと重い腰を上げ、畑の方へ捨てに行きました。魚はなんかとろとろした感じで、臭いにおいを発しています。コースケの犬小屋の前が畑。捨てる前に、コースケの鼻先に持っていったら、コースケ嫌がるだろうなあとまた悪い遊び心が・・・。しかし、予想に反して、コースケは、その臭い魚を、ペロリ!しかも、こぼれた麹にむさぼりつきます。

東京での「くさや」や、玉ちゃんの「へしこ」が思わず脳裡を走り去っていきます。
私は、洗い場で、身がつぶれないように、水洗いをしました。そしてそれを、グリルで焼いてみました。(上の写真)


焼いた魚を口にすると・・・??!
うう~!!うめ~!!
信じられない~!!腐りきったと思っていた魚たち。しかし、それは、麹の作りだした酵素たちによって、ブドウ糖やアミノ酸などの旨み成分へ巨大な変化を遂げていた。お塩も大きな力を発揮するんだね。

「へしこ茶漬け」ではないが、そのお味は、はっきし言って、もっとおいしい!!オニパン茶漬けとでも言おうか。
酵母の力の偉大さ!食べ物の不思議!
さて、酵母生活パート2がスタートしそうだな。