別府店にて

3週に一度別府店での販売当番。先週の月曜日がそうだった。40代の女性のお客様が入ってくるなり、私の方を見て、かすかに表情が変わったことに気づいた。「あなたは、オーナーさんでしょ?」「はいそうですが。」

彼女は偶然私と出会えたことを喜んでいた。そして話をしだした。

「10年くらい前、いやもっと前かな、娘が小学生のころに塚原のお店に行ったことがあるんです。娘はお店で食べたパンがとてもおいしくて、マスターに『どうしたらこんなおいしいパンが作れるんですか』と聞いていました。」

「へーそうですか、覚えていないなあ。なんて私はいったんでしょう。」

「マスターは、『どんなことでも頑張って続けていたら、できるようになるんですよ』って答えていました。娘はその言葉がとても心に残ったみたいです。今でもそのことを言っています。そして希望をもって就職しました。」

娘さんは23歳になったとのこと。きっと頑張って希望の仕事に就いたんだろう。しかし話の結末は違ってくる。就職した仕事は思い描いていたものとは違っていた。彼女は一年でその仕事をあきらめることになる。お母さんは心配し、福岡から戻っておいでと娘に言ったらしい。

娘さんは悩み苦しみながらも今人生を模索しているようだ。母の呼びかけに応えず、家には戻らないと言い張っているそうだ。

私はそれを聞いていて、娘さんの苦闘がわかる気がした。私も就職して一年目、大変な悩みや葛藤をかかえこんだ。自信も無くした。そして、就職試験を受けなおした経験がある。必死だった。

「お母さん、今、娘さんはとてもいい経験をしていますよ。その経験は人間を豊かにしますよ。」と私は話した。福岡で一人暮らしをすると言っている娘さんは、今、自分と精いっぱい向き合い、自分の人生と闘っているんだ。

お母さんは、うれしそうに、私の言葉を受けて、「私もそう思っているんです。」とうなずいた。

おいしいパンを食べ、その感動を忘れない豊かな感性は、きっと良い方向へ人生を創造するに違いない。私は胸が少し苦しくなった。娘がんばれ!

昭和の町「enCafe」のフルーツビネガー。冷たくあっさりしておいしかった!