ありきたりの、恒例の言葉を使いにくくなってきた昨今です。「新年おめでとう」はやめにして、「新しい年を幸せな年へ!」との思いを込めて。
本当に過ぎゆく一年の速さに驚きます。しかしその中にも様々な出来事があり、ただ同じ時間の経過とは言えません。年とともに深まりゆく中身。それは、人としてもパン屋としても。

ある程度片付けたオニパン畑にあるビニールハウス。折々帳に度々登場してきた園田の爺さんが使っていたものだ。爺さんが亡くなって3年。手の入れないビニールハウス内は毎年ジャングルのように雑草やツタなどで覆われる。そのたびに私はきれいにする。なんとなく恩返しのような気持ちで。

今年は正月元旦に中村君の手伝いもあり、きれいにすることが出来た。作業をしながら、爺さんはなぜトラクターやコンバインを用意し、ビニールハウスを建てたのかと考えた。もちろん自分の楽しみもあろうが、私が小麦を作り始めたから、手伝ってやろうと思ったのではないか。実際そうだった。小麦の収穫、種を蒔くための播種機、耕運機など援助してくれた。それがなかったら、小麦を作ることは出来なかった。サツマイモの苗にしてもそうだ。たくさんの苗を黙って店先に置いてくれていた。そのこともあり、私は毎年芋を植えるようになった。
この一月で私も71歳。あと10年パン屋をやれれば・・・。朝からの労働で体が痛い。足がツル。腰もダメ。ゆっくりしたいなあ。そう思う反面、できる限り長くやりたいなあとも思う。教員を30年やった。出来ればパン屋を30年。さすれば、自分の人生の中で胸を張ってパン屋の人生と言えそうだし。それくらい、パン屋の仕事に魅力と価値を感じている。教員とは違う、人への影響力を。
美味しいパンを作るためにできることって本当に多岐にわたる。それを追求することは実に楽しく充実を感じる。決してパン生地の発酵だけでなく、フィリングなどの研究もある。パンを作るための原材料の探求もあるし・・・切りがないほど次から次へと広がって行く。例えば設備的なことでも

これは上面がパンを成形などするための麺台。その下は部屋になっていて暖かくすることの出来る発酵室。中にこたつヒーターを入れていた。その調子が悪くなり近頃使えてなかった。しかしこの冬休みにこたつヒーターとサーモスタットを購入。以前よりも正確な温度管理が出来るようになった。

これは、32度設定で現在の室温31.7度となっている。室温が上がれば電源が切れ、下がればヒーターが着く。中学生程度の思考力で出来ることだが、これによって、美味しいパンのための発酵管理が前進する。今日これを作ったのだが、ホント嬉し楽しだ。
こうして焼いたパンをお客様はいろいろと評価してくださる。良いことばかりではなく、率直な感想も。こんな交流が実は人を倖せに、暮らしを楽しくさせている。オニパンのことでお客様は脳みその大切な活動と時間に使う。その人の人生の中でささやかでもオニパンが存在している。
平和を作るということは、パン屋で言えば、美味しいパンを作り、それを食べてうっとりほっこり倖せを感じることなのでは。それは、作り手の努力と人への思い、それが伝わり、人とつながり、受け手はその努力を認め、その値打ちを受け入れ、共感して、そんな生き方をしてみたくなるような・・・。日常の倖せが豊かであればあるほど、それを脅かす貧困や暴力、差別、戦争を認めない方向へ・・・そう簡単ではないが。
さて、何が一番書きたかったのか。それは、爺さんの人への思い。その思いは私に伝わり、私を変えつつある。人が変わると言うことは、人への思いがあるところにしか生じないということ。あと10年ちょいのパン屋人生を私だけで終わらせずに、人を変えていけるような熱い思いで頑張っていきたい。
平和で、一人一人が大切にされる世界、そしてほっこり笑顔が浮かぶそんな年に。「新年、今年こそ!」
営業時間 11:30〜16:00
定休日 火・水・木(※木は予約販売受取のみ)
(※祝祭日は営業します)