心に残る味覚。たかがパンとは言えないなあ。

パン屋をやっているとどれだけ多くのお客様と接することか。早14年になるオニパンカフェは、多くのお客様という財産を持っている。それを感じながら日々パンを作る。

「おいしい」と言われると嬉しいものである。しかしその言葉は時として、こちらの予想以上の深みを秘めている場合もある。そんな場面に時々出くわし、心引き締まり、胸を打つことがある。

例えばミルククリームという商品で最近二つの出来事があった。

4人組の大学生が来店。そのうちの一人が話しかけてきた。「ミルククリームとか言うパン置いてませんか。」ニコニコと親しみのある笑顔で。私は「以前食べたことがあるんでしょ。」と聞くと、「ええ、子どもの頃に。」と答える。現在大学一年生で、小学校の頃に食べたと言うことなので6~7年前のこと。その味が忘れられなくて、友達を誘って、オニパンにやってきたわけだ。ミルククリームは子どもにとってそんなパンなのだ。

そんな出来事があってさらに昨日のお話。久しぶりのお客様がご来店。夫婦と子ども二人で。その夫婦を見て物忘れの酷い私ではあるが、とっさにピ~ンと脳裏によぎるものがあった。その夫婦はオニパンのファンで、開店してまもないくらいからのお客様。若くて、まだ子どももいなかった。そして、子どもが生まれたのだが、小学生になって白血病と診断される。食事もままならない状態。お父さんお母さんはさぞかし大変な日々だっただろう。その子が昨日一緒にオニパンにやってきた。忙しくてゆっくり話す時間もなかったが、抗がん治療で2年くらい闘病していたようだ。食べられない状態の中で、T君は「ミルククリームが食べたい」と言い、お母さんが別府店に買いに行った。そのことをほぼ忘れかけていた。お母さんが「うちの子は、ミルククリームとピーナッツクリームで育ったんです。」と私に言ってくれた。何か、胸にこみ上げてきた。

日々パンを作りながら、疲れはて、時間に追われ、惰性に流されることもある。でも、たかがパンではないなあ。

話が深い割に、画像が小さすぎる。ミルククリームは自家製です。その味と、パン生地の柔らかさが子どもたちに人気なのですね。