再会

今年6月で10周年を迎えるオニパンカフェ。この10年間様々な人と出会いそして別れてきた。お客さんの場合、「別れて」という言葉はしっくりしないが、もう会えないなというケースもある。遠くの場所へ引っ越したりとか。とても親しくしていて、物理的な事情で会えなくなる場合、いつまでも心に「会いたいなあ」という気持ちが残る。しかしそれも、徐々に忘れて、いないのが当たり前になってしまう。記憶が薄くなるというか・・・。

そんなある日(2月24日)何か見覚えのあるお客が入ってきた。ママが声を上げた。私は工房で仕事をしていたので、何かなと気になった。ママが「マスター、来てえ!」と叫んだ。「マスターわかる!?」 見るとやや大柄な体躯の男性(若者)が立っていた。

「あ~!!リー君と違う?」 彼はうなづいた。 そう、あのリー君だった。

リー君は中国人。オニパンがスタートして4,5年目の2年間、スタッフとしてオニパンを支えてくれたAPU(アジア太平洋立命館大学)の学生さんだ。先に働いていた彼の彼女の紹介でオニパンにやってきた。初めて来たとき、長髪でかっこいい服装、サングラスで現れた。しゃれた車に乗り。にやけた感じで、大丈夫かなと感じた。しかし、彼女であるオータン(わたしたちが呼んでいた愛称)がとても良い子で、リー君を受け入れないと彼女に悪いかなということで働いてもらうことに。

私たちの予想を裏切って、彼はなかなかの働き手だった。しかし、初めからそうだったわけではなく、ちょっとトイレに行くといって、たばこを吸ってきたりしていた。私は臭いで分かったので、注意した。もうやめられてもいいやと思ったが、彼は謝りそれからは吸わなくなった。しばらくすると、長髪も切って、さっぱりとした若者に変わっていった。別に長髪が悪いと言ってるわけではないが、リー君は短髪で働く職人に向いていると思った。

CIMG37671 右端がリー君。6年前の写真。ホームシェアしていたマンションにママと私と娘が招かれてパーティーをした時の写真。ごちそうは中華料理だった。驚いたのはその品数とおいしさ。ある程度準備をしていたとは思うが、スピーディに料理が並んでいく。料理をしているのは、たった一人リー君だった。この写真以外にも二人女の子がいたが、皆さん座ってしゃべっているだけ。リー君一人が奮闘!リー君はあまりしゃべらないが、思いはすごくある子だと思った。

彼はパン製造にかなり興味を抱いていたようだ。仕事も熱心で、2年目の終わり頃には成形から焼成までこなせるようになっていた。窯の仕事ができるようになるとは、バイトの域を超えている。

日本語があまり上手ではなかったリー君だが、卒業の時私たちにお礼の手紙を書いてきた。大変だっただろうなあ。そして、私たちに新しい彼女を紹介してくれた。オータン(前の彼女)とは、徐々に距離が出てきていた。オータンは勉強がよくできて、オーストラリアの大学院に進路が決まっていた。リー君は勉強は苦手で、卒業も半年伸びていた。私たちとしては複雑な気持ちだった。しかし、リー君がそのことを隠さず、卒業の時に手紙と彼女を紹介してくれたことは彼なりのオニパンへの誠意だったのだろう。

リー君が中国へ帰って丸5年の時が過ぎていた。リー君は今でもパンの製造のことが忘れられないらしく、中国でパン屋をやってみたいと言っていた。私を驚かせたことはそれだけではない。彼は、結婚していて、子どもも生まれていた。そのことも、報告したかったのだろう。DSCN5722[1] これがその写真。お嫁さんはとても明るい人だった。あれっと思って尋ねてみると・・・そう、リー君が卒業の時に連れてきた彼女。結婚してかわいい子どもができたのだ。良かったなあ~!

10年お店をやっていると、こんなこともあるのか。お客様だけでなく、スタッフとのありがたい再会も。