国産小麦考 №94

パン屋らしからぬブログが続いている。ここで、話題をパンに戻したい。
パンづくりにとって大切な要素は何か。色々あるだろうが、私が思うのは4点。

一つは、パンを発酵させる酵母の種類。パンは発酵食品だ。発酵の質や味は元種によって大きく変わって来る。

次にオーブン。発酵した生地をどのように焼くかは、パン製造最終場面の決定的に重要な要素。焼き方一つですべてが決まる。しかし、焼くための道具として、オーブンの放つ熱の質も大切になってくる。それがはっきり出るのは、フランスパン。目指すパンの焼成方法、熱の質を考えることは、成形の良否などとは比べられない重要な要素となる。

3点目は、1次発酵、2次発酵の見極めや窯入れのタイミング。
一般的には、「パンを習うこと=成形の仕方」みたいな感覚がある。
何となく、「まるめ」ができて、成形がうまくできると(例えば形のよい餡パン作りができたり、きれいに麺棒で生地が伸ばせて、形よく食パンができたり)パンづくりが上手にできるという錯覚に陥る。
しかし、成形が上手にできるということよりも、はるかに大切なことが「発酵の見極め」だ。
適度な温度と湿度(これがとても大切。酵母菌は生き物であり、温度は0度から40度近くまで活動できるが、湿度が足りないと、全く駄目。そして、生地の表面が乾き硬くなり、脱皮しない限り大きくなれない昆虫のような状態になる)が必要。
良好な発酵状態こそが、美味しい生地を生成する。そのもっとも良い状態の時、タイミングを逃さず、窯に入れる。遅くなると、焼き色もつかず、味は酸っぱ味を帯びてくる。早すぎると、小さく固まり、しっとりした柔らかさも何もない貧相なものになる。

そして4点目が今回のお話と関わって来る原料、小麦のこと。
修行していたあこ庵は結構たくさんの種類のパンをつくっていた。常時100種類以上のパンをつくる。
そして、そのパンをつくる原材料としての小麦もたくさんの種類を使っていた。私は、毎日あこ庵のパンを買い、自分の舌でその違いを味わっていた。食パンだけでも7~8種類くらいあったか。
あこ食パン(山型、角型)、青木葉食パン、醸味食パン・・・。粉の違いによって、これほど味が変わって来るのかと思い知らされた。
パン屋になる前から、毎週食パン作りをやってきた。その際に、様々に小麦を変えて味を楽しんだ。基本は天然酵母だったが、小麦についてはできるだけ国産小麦を使おうと考えていた。
良く使っていた国産小麦は、キタノカオリ、こうむぎ、春よこい、はるゆたか、ミナミノカオリ、南部小麦。
しかし味やボリュームがどうしても納得できなかった。毎日食べる食パンとして、安全性は基本だが、味や食感も同様に大切だと考えた。
結局、オニパンを代表する食パンの小麦は、カナダ産のセノ―テというブランドに決めた。カナダ産の特等粉、1CW(カナダ産最高品質小麦の称号)なので、大丈夫だと判断した。
クセがなく生地もしっかり伸びてあこ酵母の旨みが良く引き出せる。

心の中では、それでも、国産小麦が常に頭をもたげている。食料自給率、安全性、地産地消など含めて、もっともっと国産小麦が広がってほしいと思っている。
そのためには、パンに向いた小麦の品種改良が求められる。
私は、国産小麦は万人受けするとは思tっていない。好き好きだと言えばそうなのだが、イギリス食パンのサクッとした食感やすっきりとした味わいは、国産小麦では出すことが難しいと思える。ソフトで伸びのある生地などなかなかつくりだせない。小麦の甘みや深い味わいは多くの人が国産小麦を評価するところだが、毎日食べる食パンに向いているかといえば、私は迷ってしまう。私自身は、今のところ、外麦(外国産の小麦)の方が好きだ。一般的には、そういう人が多いだろう。

オニパンでは国産小麦の食パンとして「ミナミノカオリ」(熊本県産)を使ってつくっている。これは、どうしても国産小麦がいいというお客様のために用意しているわけで、たくさんはつくっていない。
新年を迎え、健康に寄与するパン作りを今年のテーマに据えて、この間色々と調べたり、考えたりしてきた。第一号として、玄米食パンが完成。これは、国産小麦(ミナミノカオリやキタノカオリなど)と玄米粉、全粒粉が原料。次に考えているのが、全粒粉やフスマを使ったイギリス食パン。これに使う小麦として、今、とても期待がもてそうな有力な国産小麦を検討しているところだ。

ネットで調べていて、その小麦と偶然出会った。2008年に初めて収穫された新品種。10数年の研究で実現した北海道産の秋まき小麦。外麦に比べグルテンが弱いと言われ続けられた国産小麦
と違って、超強力粉(たんぱく含有量が何と14%。外麦でも最高12%くらい)なのだ。権威ある日本パン技術研究所の製パン試験結果を見ても、カナダ産の1CWと全くそん色のないパン総合点が出ている。
日本の国産小麦の未来を拓く夢を表して、その小麦は「ゆめちから」と名付けられた。
北海道の一部の農場でしか作付はできてないので、まだまだ一般的には出回っていないとのこと。
私はいろいめき立って(いつもそうなのだが)、その小麦を少量手に入れることができた。早速、食パンを試作した。

「ゆめちから」は、あまりに強力過ぎて、ゆめちからだけでは、ゴムまりのように引きが強く、膨れない。だから、他の粉とミックスして使うことになる。その試作結果は・・・・。

  袋に入っているのが、いつも販売している、
オニパンの山型食パン。粉はカナダ産のセノ―テ。そして左の丸ごとの山型食パンは、「ゆめちから」とミナミノカオリをミックスしたもの。
感動しましたねえ~。ボリュームにおいて、全く負けていない!ちょっと大きいかもしれない。

国産小麦が、外麦と対抗して、やっとメジャーになった歴史的な日といってもいいかも。まるで、野球やサッカーみたいに。

そして内層はどうか。これが、とても柔らかくモチッとしていて、申し分がない。
この食感も立派なもの。赤ちゃんの肌のような食感か。

味はどうか。わりとすっきりしている。ちょっと微妙に、あっさりしている。セノ―テと比べて・・・
旨みが足りないかも・・・・。これは好き好きか・・・・。
とにかく、今までの国産小麦のイメージを打ち破るものとなっていることは確か!

色々な国産小麦と合わせて、味の向上に向け、現在試作中。例えば、ユキチカラ(岩手産)と合わせて作ると結構深い味になった。ボリュームや食感は変わらずグッドだ。

こんな風に私たちパン屋に夢と力を与えてくれる「ゆめちから」の登場。この秋から、市場にでまわるとのこと。

楽しみです!!