パン屋はスピードが大事!?№72

私は、パン屋で修行をしているときに、職人さんに言われたことがあります。「ここはパン教室と違うぞ。パン屋さんは、スピードが大事だ!」なるほど、職人さんの手つき、その技には、大変なスピード感があります。「アンべらは、死んでもはなすな」と言われ、包餡(あんこを生地に包む)の際、片手にアンべらを握ったまま、餡を生地に包み、アンパン・カレー・クリームパンを作ります。
丸め(生地を商品の分量で分割した後にする)も、パン教室では片手か一つの生地を両手でするわけですが、パン屋では両手で一つずつ、つまり一気に二個の丸めをします。しかも2~3秒で。
パン教室のスピードとパン屋のスピードはこのように大きな開きがあるわけです。

10時の開店時に、一定のパンの商品が並んでいないと、お客様に迷惑がかかります。限られた時間内で、形をつくっていかないと、パン屋の体裁は整うことができません。
最近、オニパンについて、高く評価するお客様もいたりして、私もどぎまぎしてしまうことがあります。自分としては、もちろん、精いっぱい、努力して、パンをつくってはいますが、まだまだだという気持ちは、常にあるわけで。その一つが、スピードについてです。
私が言っているのは、私のパン作りのスピードが遅いということではなくて、パンの完成度とパン作りのスピードとの兼ね合いについてです。
つまり、スピードのために完成度は、少々落ちてもいいか・・という気持ち。だって、お店に出せなかったら、いくら完成度が凄くてもお客様に買ってもらえないし・・・・。こういうジレンマに陥っていました。

お手伝いスタッフの高くんは、オニパンに来てもう一年が過ぎました。彼は、オニパン商品の半分近くの製造技術を獲得しています。特に麺棒の扱いが上手で、もともとの素質がいいのか、(うまいなあ~)と感心して見ています。
彼は、実に真摯に生地に向かい合います。私が初めにアドバイスしたことを、ぬかさず、しかも自分なりのやり方を考え、自分流のスタイルを作り上げています。一つ一つがとても丁寧です。

先日、ゴールデンウィークの真っ最中、大量のパンをつくっている場面でも、高くんのスタイルは変わりません。私から比べれば、遅くはありますが、彼の手から生み出されるアイテムは、気持ちがその様子に現れています。私は、ミルククリーム(という名前の商品)を見た時、はっと思いました。
きれい!私はちょっとうっとりとミルククリームに見惚れてしまいました。
ただ、蛇のように、生地をのばす成形です。単純ではありますが、こういう単純な成形には、その人の気持ちが良く現れてくるのです。
(そうだな、このミルククリームを買ったお客様は、幸せを味わえるだろうな)
忙しさの中で、あいまいになっていたことに、高くんのミルククリームは答えを出してくれました。


走って、デジカメを持ってきて、パチリ。
袋から出して、まじかに見ると、高くんの想いがよく見えてくるミルククリームです。