ドン

1月16日オニパンカフェに迷い込んできたホームレス犬。警察に問い合わせても捜索願いは出ていない犬で、しばらく(体力が回復するくらいまで)餌をあげようかと思い数日世話をしていた。
我が家のコーちゃん(コリー犬)のお世話もあるし、早く飼い主が見つかるといいなと、軽く考えての行動。その数日間、このホームレス犬、私の知っている「犬」の概念をはるかにしのぐ、能力と行動に唖然とさせられた。
やせ細った、骨骨の体。餌をあげると、飲み込むようにがっつき、オエ~オエ~と戻して、また食べる。顔を見ると、傷がいっぱい。しかも左半分がマヒしているようで、歪んでいる。左前足は関節のところで曲がっている。尻尾の先も毛がはがれ、血が滲み、体のあちこちの毛も禿げて身が見えている。きっと、お年寄り。2~3日してコーちゃんと一緒に散歩に連れて行った。コーちゃんがどう反応するかも興味があった。ホームレス犬は、コースケを無視。何でも興味を持つコーちゃんの方は、気になって仕方がないようで、ホームレス犬の臭いをかごうとする。うっとおしいと感じたのか、ホームレス犬は、コースケに向かって牙をむき、一喝!コーちゃんは、その迫力とすさまじい「本能」に、一瞬にして降参してしまう。

彼は、きっと昔、名高い狩猟犬だったに違いない。犬種はイングリッシュセッター。鳥犬だと、知人の猟師が教えてくれた。獲物が近くにいそうな場を散歩していると、とたんに彼の動きは活発になる。地面に鼻をつけ、両手両足(4本の足)がそれぞれバラバラに動くような感じで、ぐるぐると体全体で地を這い廻りだす。犬と人間には敵意は感じないようだが、他の動物には、強い関心を示す。
近くの別荘に「モデナ」という、おとなしい白馬が住んでいる。コーちゃんの散歩コースでもあり、コーちゃんは、嬉しそうに、モデナに反応する。しかし、我がホームレス犬の彼は、しばらく大きなモデナをじっと見上げていて、次に驚くべき行動をとった。柵から顔を出して、こちらを見ていたモデナに、突然声をあげて、柵を掛け登り、顔に飛びかかっていった。モデナは仰天して、その攻撃をよけ、逃げて行ったのである。怖れを知らないこの犬!知人の猟師が言うには、この犬の顔の傷など、猪にやられたのだろうと言っていた。そうなんだ、この犬は、百戦練磨の孤高の戦士なのだ。

彼は、ウンチをするのに、普通の犬がするように、立ち止まって、おしりをすぼめ、辺りに気を使いながら、う~んと気張るようなことはしない。な、なんと、走りながら(少しスピードは落とすが)お尻を若干かがめ、大きなウンチを放り出す。獲物を探し、求める最中に、のんきに立ち止まってウンチなんかしてられないのだ。そこまで徹底したプロなのだ。

お店が、お休みの日、コーちゃんと彼とで一緒に長めの散歩をする。プロの猟犬であった彼を、リードにつないで散歩するのは、どんなものかと、自由にしてやる。まあ、どこかに行ってくれてもいいや、みたいな気持もなかばあるのだが。というのも、彼の行動には、半ば手を焼く面もあり、こちらにも疲れが出てくる。離すと、雪の日に一晩中帰ってこずに、獲物か何かを探し求めて、走り回っているとか。もう、死にそうな状態で、戻ってきて、餌を食って、倒れこんで寝ていたり。基本的に体が食料を求めていて、近所のごみ袋の中身をを食い散らかして、私が怒られたり。物置きの外につなぐと、夜中に吠えるので、中に閉じ込めておくと、これまた、吠え、足で戸をたたき続ける始末。

一週間も過ぎると、彼はうちの家になじんできたのか、離していても、1~2時間ほどで、戻ってきて餌をねだるようになる。二週間もすると、家にいてるときには、静かで落ち着きも見せ、私やママが近付くと、半身顔面マヒの口から歯をむき(彼にとっては喜びの表現)、尻尾をうち振るようになった。
このまま「あいつ」とか「ホームレス犬」なんて呼んでいては悪いなあと、名前を考えた。ママの実家にも以前捨て犬で彼とよく似た感じの犬がいた。名前は「ドン」。
そう言えば彼にぴったりなのでは。コースケは、彼と一緒に散歩に行く時、彼の後をついていく。コーちゃんは、あの「一喝」以来、彼にビビっていたが、最近では親しみも覚え、彼のすごさに敬服してか、後を嬉しげについて回っている。「アニキ~!」みたいな感じ。骨骨の痛々しい感じではあるが、彼は「ドン」(親分)の風格がある。

「どんちゃん」って呼ぶと、駆け寄って来る。朝と夜の散歩時にはねだるような甘えるような鳴き声を数日前から発するようになってきた。
しっかりと感情表現をするどんちゃん。今からすれば「雪の中で死なないで良かったなあ」と、ひしひし感じるまでに、我が家の犬になってきた。

手前がコーちゃん。奥の物置にどんちゃん。朝の散歩前の一コマです。


顔がちょっと歪んでいるどんちゃんです。

ちょっと緊張のツーショット

こんな感じで、先頭を歩くどんちゃん。