春のお弁当

お店を開いた一年目の春のことです。
よく来られる別府のお客様で、自然が大好きな方がいました。夫婦でいつもやってきて、奥さまは、山に行った話、草花の話、食べ物の話などママとしばし話して帰られます。旦那さまは、山が大好きな人で、鳥に関しても専門家。巣箱をつくってくれて、店の前のモミジの木に掛けています。その巣箱は、昨年も今年も若い二羽の雀が新居として利用しています。その奥さまのことを、今日は書かせてもらいます。日記に書かせてもらってよいかと尋ねると、快く承諾してくれ、「別府のさなえちゃん」て書いていいよと言われましたので、以後さなえちゃんと呼ばせていただきます。
さて、食に関わるものとして、恥ずかしい話ですが、私は食事にあまり関心がなく、この年になって、色々と感じることも多くなり、(もっと食に関心を持つべきだったなあ)と反省の日々。
その刺激を与えてくれた方の一人が、さなえちゃんでした。
さなえちゃんは、「別府はいい。ちょっと行くと、山があり、そこにはいっぱい食べるものがある。」と言います。とても、野草などへの造詣が深く、研究会へも参加していて、四季の山の状況もよく把握しています。さなえちゃんには「何月何日には、ここで何が採れる。」っていうような、昔、縄文人が自然の狩猟・採取をしていたころの、縄文カレンダーみたいなものがあるようです。
そのおこぼれにオニパンもあやかっていて、大量の桑の実のコンポートやユズ煉りなどをいただいたりもしました。
春は、さなえちゃんにとって、心躍る季節だと想像されます。食に関心の薄い私でさえ、フキノトウやツクシを見て、夢中になり、ママに頼んで料理をしてもらったりするのですから。
昨年の春、さなえちゃんが「春のお弁当を今度持ってきてあげる」と言います。初めて聞いた「春のお弁当」て何かなあと不思議に思っていました。
そのうち、彼女はやってきて、「春のお弁当」をプレゼントしてくれました。

さなえちゃんに聞いたわけではないので詳しくはわかりませんが、見ただけでも、ツクシ、木の芽、桜の花、フキノトウなどが目に入って来ます。サフランの色がとてもきれいなごはんですね。

これが、いただいた「春のお弁当」です。まあ、ちょっと、というか、かなり、ショックでした。私の「食の世界観」からは、想像の域を超えていました。自然と食がこんなにも密接に関わるものなのかなあ、と驚かされました。自然が好きといっても、こんな風にできると、すごく楽しいだろうなと感じ入りました。
さなえちゃんは今年も「春のお弁当」を持ってきてくれました。

写真ではわかりにくいのですが、タケノコごはんです。タケノコは、3センチくらい芽が出たのを足底で探り当て採るとのこと。採れたてのタケノコを、そく調理してくれました。ツクシ、ヨモギ、フキなども目に入って来ます。

こんな風にお弁当ができる人って、食の豊かさだけでなく、周りの人も豊かにしてくれそうです。ひとつひとつのものに、野山を探し歩くところからの思いがつまり、丁寧に料理される・・・。お子さんも楽しみにしていたでしょうねえ。